このエントリは UX Tokyo Advent Calendar 2014 の 4 日目のエントリです。 前日は fumiya さんの「UXデザインのための、ポストデザイン思考」でした。
お詫び
前日の fumiya さんのエントリと盛大にネタ被りしてしまった感じがしています。
ただ、ちょっと他のネタが思いつかないのと言葉を変えれば違う伝わり方をするかも知れないのでおそらくほぼ同じ内容になってしまうと思いますがそのまま書きます。ご了承ください。
自己紹介
すえなみと申します。漢字で書くと末並です。「末波」とよく間違われますが「末並」です。
とても希少な名字なので勉強会等で「すえなみ」と名乗ってる人間がいたら間違いなく僕のことだと思ってください。 オンラインでは a_suenami とか a.suenami とかで活動してます。
Twitter: https://twitter.com/a_suenami
Facebook: https://www.facebook.com/a.suenami
所属は渋谷にあるファクトリアルという会社で、受託開発のお仕事をしています。Ruby、PHPあたりがメインの開発言語です。 よろしくお願いします。
忙しい人のために結論
タイトルの通り、UXデザインとは組織論だと思っています。
ちょうど 1 年ほど前にこんな記事も書いたのですが、これと言いたいことはだいたい一緒です。
「アジャイルでの開発がうまくいかない」と思っている人に伝えたいたったひとつのこと
その結果、ユーザに継続的に価値を届けながら、チームがストレスなく仕事を続けられるのだと考えていて、「よいプロダクトを提供する手法」であると同時に「よいプロダクトを提供し続けられるチームをつくる手法」だと捉えています。そして、最近では、後者の意味合いのほうが前者よりずっと重要だと感じています。
UXデザインも「よい経験をデザインする」よりも「よい経験を提供できるチームをデザインする」ことのほうが特徴として色濃く、かつ重要性も高いと考えていて、したがって「UX デザインとは組織論である」と思っています。
UX とは何か?
直訳すると「ユーザの経験」です。
ですが、この「経験」と言葉が何にでも当てはまりすぎてたびたび議論になりますし、いまだに誤解を生んでることは否定できないでしょう。
UI/UX という併記される例が非常に多いことからもわかる通り、UX デザインは多くの場面で「 UI を改善することによって使いやすいプロダクトやサービスを提供することである」という極めて狭義な意味で用いられます。しかし、UI を改悪することによって UX を向上させた例もありますし、そもそもユーザは四六時中そのプロダクトやサービスを利用しているわけではないため、それ以外の時間の"経験"は UI の改善だけでは向上できません。
UX デザインという言葉自体が Web サービスやスマートフォンアプリ開発の文脈で用いられることが増えたきたということもあり「使いやすい」というところにフォーカスがあたるのはわからなくもないですが、実際のユーザの"経験"はそれを使う前にイメージを想起するところから使い終わっていつかそれを思い出すまで多くのシチュエーションがあり、UI という単一の要素の改善だけで最適化することはできません。
UX デザインはスキルにあらず、思想なり
「UX デザイン」というのはそれ自体が固有のスキルではなく、思想の類と思ったほうがよいと思っています。
ユーザの経験があらゆる要素の複合体として構成される以上、デザインするべきポイントもその数だけ(あるいはそれ以上に)あり、それは非常に多方面での専門性を必要とします。
インタビュアー、コンテンツライター、マーケッター、グラフィックデザイナー、プログラマ、データサイエンティスト、いろいろな専門性を持った人たちの集まった結果としての「UXデザイン」があり、基本的には軸足の専門性はプロジェクトメンバーそれぞれが持っているはずで、それらを繋ぐ共通の価値観としての「UX デザイン」と捉えたほうがしっくりくるでしょう。
「UX デザイナー」とは何者か
「UX デザイン」がスキルでなく思想なのだとしたら「UX デザイナー」とは一体何者なのでしょうか。
僕は正直 UX デザイナーなんていないと思っているのですが、そんなことを言うとあらゆる方面からマサカリが飛んできそうで怖い*1のでちょっと考えてみます。
UX デザインがが「ユーザの経験をよりよくデザインする」とともに「よりよい経験を提供できるチームをデザインする」ことなのだとしたら、それを実践する UX デザイナーはチームにおけるコーチやファシリテータと捉えることができます。
スクラムチームに対するスクラムマスターがそうであるように、UX チームにおける UX デザイナーとはメンバーに働きかけ共通のゴールに向かって自律的に動いていけるチームを作る人のことだと思います。スクラムマスターの理想は自分自身を解雇できること(=自分がいなくなってもチームがまわること)だと言われますが、それは UX デザイナーにも同じことが言えそうです。
やはり UX デザインとは組織論である
アジャイルと同じく UX デザインの最大の成果物はプロダクトではなくそれを作ることができるチームであり、その点ではアジャイルも UX デザインも組織論の一種です。
アジャイルがシステムのビジネス的価値に重きを置いているのに対して、 UX デザインはそれを使うユーザの経験の価値を重視しているという点が異なりますが、実際のところそれ以外に違いはないように思っています。
UX とはサービスから直接得られる経験だけでなくそれ以外の時間で間接的に得られる経験も包括した概念であり、それをデザインするということは単にサービスを改善するということ以上の意味を持っています。
それは究極的にはどういうチームを作るか、そのためにどういう人をチームメンバーとして迎え入れるかという人事制度やガバナンスの問題にもなるのであり、「 UX デザイン」という言葉が単なるサービス改善のプラクティス集として使われるのではなく、誤解なく、真摯にユーザの経験を改善するための共通言語として使われることを切に願います。
*1:マジでこわい!